特集 2026/05/26

技術は、社会にどう向き合うべきか——ELSI / RRIから考える技術と倫理のこれから

AIやロボット、エネルギー、宇宙開発。技術の進展は社会に何をもたらすのでしょうか。具体的な事例を手がかりに、技術と社会の関係をさぐります。

技術は、単に進歩させればよいのでしょうか。あるいは、どこまで進歩させてよいのでしょうか。

AIやロボット、エネルギー、宇宙開発など、私たちの社会を取り巻く技術は日々進展しています。新しい技術は、生活を便利にし、これまで解決できなかった課題に向き合うための可能性を広げてきました。一方で、その技術が社会に導入されるとき、利便性や効率性だけでは測りきれない問題も生まれます。

たとえば、自動運転の車が事故を起こしたとき、責任は誰が負うのでしょうか。新しいエネルギー技術は、未来の世代や地域間の公平性にどのような影響を及ぼすのでしょうか。宇宙資源の利用が進むとき、どのようなルールや倫理が必要になるのでしょうか。技術の進展は、社会の仕組みや価値観そのものに関わる問いを含んでいます。

本特集では、ELSI(エルシー/Ethical, Legal and Social Issues)およびRRI(アールアールアイ/Responsible Research and Innovation)の視点から、技術と社会の関係を捉え直し、その問いを考えるための手がかりを示します。

ELSI / RRIとは何か

ELSIは、技術の進展に伴って生じる倫理的・法的・社会的な課題を扱う考え方です。技術そのものの是非だけではなく、その技術がどのように使われ、誰にどのような影響を及ぼすのかに目を向けます。AIによる意思決定の公平性、個人データの扱い、自動運転をめぐる責任の所在などは、その代表的な論点です。

一方、RRIは、こうした課題に対してより能動的に向き合う姿勢を示します。問題が起きてから対応するのではなく、研究や技術開発の初期段階から、社会との関係を考えていくという考え方です。「あとから倫理を考える」のではなく、「最初から社会とともに考える」ことが求められます。

これらは、技術の進展を制限するための概念ではなく、その可能性を社会のなかでどのように活かしていくのかを考えるための枠組みです。技術が社会に入っていく過程では、研究者や開発者だけでなく、制度をつくる人、利用する人、影響を受ける人など、多くの立場が関わります。だからこそ、技術をめぐる問いは、専門家だけが探究するものではありません。

東京大学の講義では、こうした視点がさまざまなテーマを通じて取り上げられています。本特集では、ELSI / RRIをめぐる講義を横断しながら、基礎的な考え方から現実の課題、そしてこれからの技術のあり方までを見ていきます。

シリーズ紹介

ELSI / RRIをめぐる問いは、AIやロボット、エネルギー、宇宙開発など、さまざまな技術と社会の接点に広がっています。ここでは、2024年〜2025年に東京大学 工学部・大学院工学系研究科が開催したトークセッションをもとに、それぞれのテーマから技術と社会の関係をさぐります。

東大教授たちと考えるELSI/RRI

AIやロボットなどの技術を題材に、倫理や法、社会との関係を踏まえた議論。研究者だけでなく、社会との関わりの中で技術を考える視点も示されています。技術の未来は、どのように社会と共有されていくのでしょうか。

コンテンツ一覧

  • 東大教授たちと考えるELSI/RRI
  • 自動運転車の事故は誰の責任?
  • ドローンが東京を飛ぶことになったら
  • ロボットに人間性は必要?
  • 次世代ロボットに必要なことは?

技術は人を不幸にするのか?東大教授たちと考えるELSI/RRI Vol.2「エネルギーと環境 未来の持続可能社会をどうするべきか」

気候変動という課題に対し、新エネルギーや気候工学、格差の問題などを手がかりに議論が展開されています。技術と社会の関係が、具体的な事例を通して考察されています。そのとき、誰が恩恵を受け、誰が影響を被るのでしょうか。

コンテンツ一覧
  • 気候変動のツケ、誰が払うのか?“世代間公平性”
  • 気候変動を止めるベストなエネルギーは?
  • 太陽光は最強のエネルギー それでも“地球を救えない理由”とは?
  • 地球を冷やす“人工手段”とは?気候工学の最前線
  • もし宇宙人が地球温暖化を見たら―気候戦略へのアドバイス

技術は人を不幸にするのか?東大教授たちと考えるELSI/RRI Vol.3「宇宙×資源で人類の活動領域をどう拡げるか」

宇宙資源の活用や民間参入が進むなか、倫理やルールの整備といった課題が取り上げられています。宇宙開発と社会の関係が、さまざまな観点から示されています。宇宙での活動が広がるとき、どのようなルールや責任が求められるのでしょうか。

コンテンツ一覧
  • 資源は宇宙で現地調達する時代に
  • 開発のために天体の形を変えていいのか?
  • 宇宙旅行が日常になる時代がやってくる
  • 民間企業が宇宙開発に乗り出した時代のELSI-RRI
  • 宇宙での紛争を防ぐには
  • 宇宙での事件・事故はどう監視するのか
  • 地球のためになるという意味での宇宙開発

技術と社会のあいだで

技術は、社会をよりよくするための力になり得ます。しかし、その力がどのような方向に向かうのかは、技術だけで決まるものではありません。そこには、制度やルール、価値観、そして社会の側の選択が関わっています。

ELSIとRRIは、技術の可能性を社会のなかでどのように活かしていくのかを探究するための枠組みです。技術を否定するのではなく、その影響を見据えながら、社会とのより良い関係を構築していくための指針といえます。

こうした問題は、専門家だけに閉じたものではありません。私たち一人ひとりが技術の利用者であり、そのあり方に関わる主体でもあります。便利さや効率だけではなく、その技術が誰に届き、誰に負担を生むのかを考えることも、これからの社会において大切な視点になります。

私たちは技術とどのように向き合うのか。その問いは、これまでも、そしてこれからも続いていきます。

執筆者
UTokyo Channel 編集部スタッフ
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