コラム 2026/08/20
コラム

なぜ私たちは新しい技術を恐れるのか(「AI を中心とする科学技術に対する不安」佐倉統先生の講義より)

現役東大生が独自の視点で講義を紹介するコラム。急速に進化するAIに、漠然とした不安を覚えたことはありませんか。そこで今回は、私たちが科学技術に不安を抱く理由を、佐倉統先生の講義からご紹介します。

近年、ChatGPTやGeminiをはじめとする生成AIが凄まじい速度で進化しています。

つい数年前までは、多くの人にとって「なんだかよくわからない技術」だったAIは、今では私たちの日常生活でも当たり前に使われ、欠かせないものになりつつあります。

とても便利な反面、「AIに仕事を奪われるのでは?」「AIが進化しすぎて、人間が制御できなくなる日がくるのでは?」など、漠然とした「不安」を感じたことがある方も少なくないでしょう。

こうした最先端の科学技術に対する不安はAIに限ったことではなく、実は歴史上、新しい技術が登場するたびに繰り返されてきました。

では、なぜ私たちは科学技術に対してこのような不安を抱くのでしょうか。そこには、人間ならではの心理的な理由がありそうです。

今回は、そんな科学技術に対する不安の本質に迫る講義「AI を中心とする科学技術に対する不安」をご紹介します。

講師の佐倉統先生は、進化生物学などをご専門とされています。

佐倉先生のお話に沿って、私たちが不安を抱く理由や、これからの科学技術との付き合い方を探っていきましょう!

なぜ私たちは科学技術に不安を抱くのか?

皆さんは、イギリスの小説家、メアリー・シェリーが1818年に書いた小説『フランケンシュタイン』をご存じですか?

映画などを通じて「フランケンシュタイン」という名前を耳にしたことがある方は多いと思います。顔に縫い目のある「怪物の名前」だと思われがちですが、実はフランケンシュタインとは、その怪物を作り出した科学者の名前です。

この小説は、自らが創造した怪物に恐怖を抱くようになる、というのが大きなテーマです。

SF作家として有名なアイザック・アシモフは、この小説に由来して、「フランケンシュタイン・コンプレックス」という言葉を生み出しました。

UTokyo Online Education 東京大学朝日講座 2020 佐倉 統

フランケンシュタイン・コンプレックスとは、ロボットなどの人造物への憧れと、それにより創造主である人間が滅ぼされる不安などが入り混じった感情のことを意味します。

私たちがAIに抱く不安も、まさにフランケンシュタイン・コンプレックスと言えるかもしれません。

さらに講義では、心理的な要因として動物の「刷り込み」現象についても触れられています。

刷り込みとは、ヒナが生まれた直後に見た動くものを親だと認識するような現象ですが、これが人間の科学技術に対する感覚にも当てはまる可能性があると佐倉先生は指摘します。つまり、自分が成長期(若い頃)に親しんできた技術を「当たり前(基準)」として受け入れ、そこから大きく外れた新しい技術に対しては、本能的に不安や嫌悪感を抱きやすいということです。

イギリスの作家ダグラス・アダムズも、これと同様の主張をしています(こちらの詳しい内容はぜひ講義動画をご覧ください!)。

この仮説に基づけば、生まれたときからAIが身近にある現代の子どもたちは、大人になっても、私たちが今感じているようなAIへの不安を抱かないのかもしれません。

そもそも科学は人に優しくない!?

講義の中で、佐倉先生は、科学的知識はそもそも人に優しくないと主張されています。

というのも、科学の本質とは「人間の直観では得られない知識を獲得すること」であり、それは同時に「人間を世界の中心から追いやる(脱中心化)」ことにつながるからです。

これはどういうことなのでしょうか?

講義では、人間の世界観を大きく変えた「三大世界観革命」として、コペルニクスの地動説、ダーウィンの進化論、フロイトの無意識研究が挙げられています。

たとえば、コペルニクスの地動説以前は、宇宙は人間(地球)を中心に回っていると考えられていました。しかし地動説の登場によって、地球は宇宙の単なる一惑星にすぎないことが証明されました。これがまさに科学による「人間の脱中心化」です。

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これをAIに置き換えて考えてみると、人間の強みであった「知能」が代替される可能性や、それにより仕事が失われるといった恐怖に直結します。これもまた、現代における「人間の脱中心化」のプロセスと言えるでしょう。

そもそも科学って何?

では、なぜ科学は直観を超えられるのでしょうか?そして、そもそも科学的知識とは何なのでしょうか?

講義では、科学的知識とは「学術論文によって構築された知識空間」であると説明されます。

科学の世界では、多くの研究が「仮説」を立て、それを実験や観察によって「検証」し、その結果から新たな仮説を導き出す、というサイクルを繰り返すことで進歩してきました。

また、研究を学術論文として公開するには、専門家による査読(Peer Review)という過程を経なければなりません。査読では、第三者の専門家が研究について検証や追試を行い、研究結果の再現性や論理的に正しいかを証明します。

このように、何重もの検証と修正のプロセスを経て磨き上げられているからこそ、科学的知識は高い信頼性を獲得できるのです。

ここで重要なのは、科学的知識であっても100%正しいとは言えず、しかしながら、厳しい検証のサイクルを経ているために、日常的な感覚で得られる生活知や直観よりも正しさの確度が高いと言えるということです。

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私たちはその「直観を超えた、時に人に優しくない科学的知識」と、どう向き合い、どう使いこなしていけばよいのでしょうか

ここから先は、ぜひ講義をご覧いただき、皆さんも一緒に考えてみてください。

執筆者
おおさわ(東京大学学生サポーター)

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