コラム 2026/10/16
東大生のイチ推し!

国境が決める他者との関わり方(「外人にかたりかけることー間際性(transnationally)の場面と異言語のかたりかけの政治」酒井直樹先生)

東大生が独自の視点で講義を紹介するコラム。私たちが当たり前だと思っている「外人」への眼差しは、どのように作られてきたのか。国境や他者に対する無意識の前提について、コーネル大学名誉教授の酒井直樹先生とともに深く考えてみませんか。

「外人」と聞いて、あなたはどんな人を思い浮かべますか?

いわゆる「外国人」、自分とは違う国籍を持つ人を想起する人が多いのではないでしょうか。

しかし、「外人」を「異人/見ず知らずの人」だとすれば、そのような他人は同じ国の中にも無数に存在するはずです。それでも私たちは、無意識に他者を「同胞」と「外国人」に分類し、なんとなく通じ合えそうな「同胞」に対して、「外国人」を自分とは違う世界を生きる「外人」として認識してしまう傾向にあります。

なぜ私たちが他者を認識するにあたって、他者と自分との間の「国境」がそんなに重要になってしまったのでしょうか。

もっと多様な他者との関わり方を構想するために、まずは、私たちがつい寄りかかってしまう国境に基づく想像力についてじっくり考えてみましょう。

今回紹介するのは、アメリカ・コーネル大学名誉教授の酒井直樹先生による講義「外人にかたりかけること——間際性(transnationality)の場面と異言語のかたりかけの政治」です。

The University of Tokyo 学術フロンティア講義 2024 酒井 直樹

地図が国家を作った?

現在、私たちが想像する国家は、連続した国境によって他から隔てられた閉鎖的な空間(=領土)と、その住民(=国民)、そしてその領域における国家の統治(=主権)から成り立っています。

実はこのような国家モデルは、歴史上ずっと存在してきたわけではありません。近代ヨーロッパで生まれた、比較的新しい概念なのです。

このような国家が生まれるためには、様々な条件が必要です。意外なことにその一つが、科学的な地図の作成技術でした。

世界地図に慣れ親しんだみなさんは、「国家」の領土はもともと決まっていて、それが地図上に表現されただけだと考えるかもしれません。

でも近年、それは逆だという説が有力です。地図によって主権の範囲が可視化されるようになるまで、ヨーロッパでも教会などの領域を前提としない統治権力が、封建領主や国王による領域ごとの統治と重なるように存在していました。

ある程度正確な地図を書く技術が発達し、鳥瞰的な視点から国と国との境界を地理的に表すことができるようになってはじめて、国境に囲まれた領域を一元的に統治する国家が「構想」できるようになったというのです。

国民を結びつけるのは「共感」

しかし酒井先生によれば、地図技術の発達によって把握された国境が分けるのは、土地だけではありません。国境は、その土地に住む人々、つまり「国民」の把握にも使われるようになります。

そもそも国家に直接帰属する「国民」という概念は、国家の領土的区分と同様に、近代ヨーロッパにおいて生まれました。

酒井先生は国民概念を日本に輸入した典型的な例として、J.S.ミルのNationalityという語を福澤諭吉が訳した「国体」という言葉に注目します。

福澤は、欧米列強による植民地化の危機を防ぐために、欧米に倣って国民という新しい共同体を作る必要があると感じていました。江戸時代までの日本社会では藩ごとの統治が行われており、国家の統治の基盤となる「国民」としての共同性が育っていなかったのです。

そこでイギリスの思想家ミルを参照し、国体の基盤として見出したのが「共感」でした。

ミルは、国家の成員が同じ経験を共有すること、もしくはそれを想像する事が国体の要だと考えました。その契機となるのは、例えば国民史教育です。直接は体験していなくても、「我々」の歴史として同一の事象や経験を学ぶことで、「共感」を媒介に個人の国家への帰属意識を育みます。

しかしここで問題が生じます。誰が歴史的経験を分かち持つ「同胞」であり、誰がそこから排除される「外人」なのか、ということです。

「同胞」と「外人」の区別

そこで再び注目されるのは、地図による国境の表象です。

先ほど少しだけ述べたように、国境が「分ける」のは土地だけではありません。国境は人間を国⺠に帰属する者たちとそうでない者たちに分類し、分離する機能を持ちます。

酒井先生によれば、国境による人間の分類は人種の分類に近しいものです。国境の内側の人間には種的な同⼀性が期待され、教育等によってその同一性と「外人」との差異は実質化していきます。

さらに国境による人間の分類は、人々の帰属だけでなく、人々の他者に対する認識をも二つに分けてしまいました。「外⼈」である点で同国⼈も外国⼈も変わりがないはずなのに、私たちはこの⼆種類の⼈々に対し全く異なった態度を採り、全く違う期待を抱き、全く異なった共感を持つようになります。

The University of Tokyo  学術フロンティア講義 2024 酒井 直樹

つまり、私たちの「外人」に対する関わり方や、その基盤となる「外人」に対する想像力が、地理的な国境のイメージによって制限されてしまっているのです。

移民問題をはじめ、「外人」に対する差別と暴力が吹き荒れる現代社会において、私たちは「外人」に対する関わり方とその基盤となっている国民共同体のあり方をもう一度見つめ直す必要があると、酒井先生は説きます。

国際性を乗り越える

さて、酒井先生が講義でお話ししている内容はここまでです。

国境を前提にした「外人」への関わり方を乗り越えるために、酒井先生が必要だと考える「間際性(Transnationality)」という概念については、質疑応答や講義資料1の後半部で詳しく紹介されています。よかったら講義と合わせて目を通してみてください。

執筆者
下山佳南(東京大学学生サポーター)
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