東京大学公開講座「力<チカラ>」
コンテンツ一覧
チカラ原論 ~生命・自然と人間社会~
第1回 開講にあたって
「知は力なり」とは、十六世紀末にイングランドの哲学者、フランシス・ベーコンが口にした言葉です。この発言から四百年がすぎたいま、知の担い手である大学ほど、世に流布するイメージでは、「力」と遠いものはありません。 しかし、この「力」とはいったい何でしょうか。分子の運動から、身体のはたらき、人と人との交渉、さらには国際紛争まで、この現実世界は、すべての場面で、さまざまな「力」の交錯によってなりたっていま…
第2回 構造力学と政治力学のアナロジー
「力」という概念は、物理的な力だけでなく、政治力、権力、影響力、技術力、魅力など、様々な対象に比喩的に用いられる。そこには「力」という概念が表現する共通性と、それに起因する共通の体系が存在する。本講義では、構造物や材料の力学現象と政治的現象とのアナロジーを示す。ミクロからマクロを導くアプローチ、相互干渉に起因するモード変化、構造解析と政治過程分析、構造設計と制度設計の対応関係等を論ずる。
第3回 生命・ナノテクの鍵をにぎる分子レベルの弱いチカラ
分子は原子と原子が「化学結合」という強い力で結びついてつくられている。近年になり、分子同士にもさまざまな「弱い結合(チカラ)」が働いて、分子は決められた構造の集合体に自発的に組織化することがわかってきた。このような巧妙な自然の仕組みは「自己組織化」と呼ばれ、数多くの生命現象を支配するとともに、ナノテクノロジーの中核技術のひとつとみなされるに至った。本講義では、このような分子レベルの弱いチカラの魅…
身体の力はどこからわくか~心臓から筋肉まで~
第4回 筋力の適応機構と筋力獲得のための新戦略
筋力は身体の発揮する最も具体的な「力」といえます。筋力はまた、運動やトレーニングによって増強し、加齢や不活動によって減弱するという、顕著な適応を示します。近年では、筋力を維持・増強することが、生活習慣病の予防や、高齢者の転倒防止のためにも重要とみなされるようになってきています。ここでは、運動などに対して筋が適応するメカニズムを概説し、そのメカニズムを利用して筋力を獲得する、全く新たな運動方法を紹…
第5回 冗長な筋骨格系が発揮する力
我々の筋骨格系は、一つの関節を複数の筋が跨いでいるという特徴を持っています。この一見どうということのない特徴も、筋の出力を制御する側、脳からみれば大きな問題です。関節で出力されたある量の力(トルク)に対する各筋の貢献度は一意的に決まらず、可能性としては無限通りのパターンが存在するからです。二つの関節を同時に跨ぐ二関節筋の存在を切り口として、こうした「冗長性」の下、唯一のパターンが選択される機序に…
設計・情報収集・交渉 ~力を用いる技法~
第6回 ちからと建築デザイン
建築の形態はさまざまな力と思想に支配されている。重力がアーチの形を決め、表面張力が膜構造の形を決める。自然災害の多い日本では木と紙と土の建築ができ、西洋の人々は重たい石積み建築から解き放たれるために、鉄筋コンクリートや鋼構造などの素材を生み出した。20世紀後半には人類は宇宙へ進出し、動く建築も現れてきた。本講義ではちからと建築形態の関係についてわかりやすく説明し、21世紀の建築デザインについて建…
第7回 交渉力ー取引と紛争解決における「力」と法
私たちが、「あの人の交渉力はすごい」とか「私には交渉力がない」というときの「交渉力」とは何を意味しているのでしょうか。交渉力は学んで身に付くものなのでしょうか、それとも天賦の才能なのでしょうか。そして、交渉において「法」はどんな働きをしているのでしょうか。日常生活であれ、仕事であれ、日々人々が他者・他社との関係を形成するために実践している交渉における「力」について、みなさんと一緒に考えてみたいと…
力の理論の最前線~湯川秀樹百歳~
第8回 核力100年
湯川秀樹は1935年に、原子核の内部で働く力「核力」が新粒子の交換で生まれることを予言した。後にその新粒子「湯川中間子」が発見され、日本人初のノーベル賞を受賞した。それから72 年間にわたる実験・理論の進歩は目覚しいものがあり、核力の理解は大いに深まった。今年2007年は湯川博士生誕100年にあたる。湯川理論から現在までの研究を概観し、最前線の「核力」研究、例えば「三体核力」や「クォークレベルからの理解」など…
第9回 昆虫にみる生命力 -環境に適応する力-
生命力は何かを定義するのは難しい。しかし海洋を除く陸地を覆いつくし、地球上の生物種の半数を占めるといわれる昆虫が生命力に富んでいることは疑いない。硬い皮膚をまとった昆虫は飛翔によって生息域を拡大させたが、昆虫繁栄の「秘密」は度重なる地球環境の変動に巧みに適応してきたことにある。休眠・変態・社会性・擬態など、ありとあらゆる策を講じて進化の競争を勝ち残ってきた。昆虫の生き残り戦略について考察する。
見える戦争、見えない力 ~国際社会と日本~
第10回 近代日本と軍事力ー歴史に学ぶ
数十万規模の軍隊を上陸させ、敵国を占領し、戦争目的を達成できる能力を、戦力投射能力と呼ぶ。日清戦争以降の日本は、政治的外交的手段によって本来は解決しえたかもしれない問題を、大陸や半島へ向けた戦力投射能力にうったえることで「解決」しようと図った国であった。本講座においては、大日本帝国憲法下の戦争指導の特質をわかりやすく解説したい。
第11回 ものづくりを諦めたアメリカ、マーケティングの出来ない日本:顧客の力を探る
最近のマスコミによる『ものづくり』ブームに警鐘を鳴らす。まるで日本に残された最後の道のような印象を受ける。70~90年代、アメリカは日本の製造業の猛烈な追い上げにあって、逃げ場を探した。ちょうどそこにインターネットの時代が到来し、ネットワークを利用することによって見事に変身を遂げた。アメリカは、ものづくりが出来ないのではなく、やりたくないのである。BRIC諸国などの追い上げによって、今、日本は同じよ…
第12回 戦後日本におけるアメリカニズムと権力
「アメリカ」は、現代世界において圧倒的に優位なグローバル・パワーでありながら、大衆文化やライフスタイルとしてわたしたちの生活の奥深くに入り込んでいる存在でもある。戦後日本で、「アメリカ」はまず占領軍として、つまり露骨な「暴力」として人々の日常風景に立ち現れながら、やがて家電で囲まれた豊かな消費生活や若者たちのファッション、さまざまなメディア・イメージの源泉にもなっていった。ここでは戦後日本におけ…
第13回 国際政治における権威・権力・暴力
国際政治は力の支配する世界。いかにも当たり前の議論だが、兵隊が大きければよいというわけでもない。ヨーロッパの宮廷外交では王家の伝統や教皇との距離によって各国の影響力が左右されたように、武力の規模だけが力ではないからだ。それでは、他の国に「言うことを聞かせる」ためには何が必要なのか、そして暴力による威迫はどれほど有効な手だてなのか、国際政治における力の多様な源泉とありかたについて探ってみたい。