東京大学公開講座「だます」
コンテンツ一覧
上手にだます -制御の技術-
第1回 錯覚とVR技術
VR(バーチャルリアリティ)技術とは、デジタル技術を駆使して疑似的体験をつくり出す技術のことを指します。体験は感覚と不可分の関係にあり、VR技術を感覚の技術と呼ぶ人もいます。感覚間の相互作用を利用することによって、おどろくほど単純な仕組みで人工的な感覚刺激を作り出すこともわかってきました。本講義では、これまで難しいとされてきた触力覚、嗅覚、味覚などを中心に新しい感覚の技術について語ります。 …
第2回 だまして分かる脳が身体を操るメカニズム
私たちの運動学習系は、経験や試行錯誤を通じて、驚嘆するほどの巧みな身体動作さえ実現する「制御器」を脳の中に作り上げます。「頭ではなく身体で覚えよ」とよく言うように、この運動学習のプロセスはほとんど無意識下ではたらき、実験系を工夫してやると被験者が気づかないまま新奇な視覚環境や体性感覚環境に適応してしまうということが生じます。本講義では、こうしたいわば「脳をだます」ことによって明らかになった、脳が…
第3回 「はやぶさ」にみる、だましだましの宇宙船運用術
人類初の地球圏外天体、小惑星イトカワへの往復の宇宙飛行を試み、昨年6月に無事帰還した「はやぶさ」の運用は、途中、幾多の故障やトラブルに見舞われました。しかし、プロジェクトチームは、これらの問題点を、なだめつつ、うまくかわしながら飛行を継続させることに成功しました。本講義では、この「だまし」つつの運用が、「はやぶさ」との協同で達成されたことを紹介し、その内容と、苦心にみちた探査機とのやりとりの実態…
だましと心理 -だましの理論と哲学-
第5回 語りと騙り
ある事柄について、筋を立てて発話・記述する行為が<語り>です。しかしそれが事実をそのまま伝えているとは限らず、日本語で同音でもある<騙り>は、必ずしも別の語というわけではなさそうです。当人が意図したか否かにかかわらず、<語り>をする人の加工を経て、その事柄は<騙り>へと変化します。人間社会にとって<騙り>は必要悪なのではないかという観点から、単なる方便という以上に、だますことの名誉回復を試みてみ…
第6回 騙しと哲学
他の学問が個別の真理を探求するのに対して、哲学は真理の探究そのものを自らの任とします。 とすると、騙すことは哲学という活動とは対極に位置づけられることになります。ところが、古代 ギリシアのソフィストや近代のデカルトにおける欺く神の議論が示しているように、騙すことはいつも哲学と不可分の関係にありました。本講義では、哲学史の議論を素材にしながら、真理を探求 することと騙すこととの内的な関係を考えたいと思…
医療におけるだまし -だますことで生命を救う-
第7回 偽薬・プラセボ
Placeboは日本では一般に「偽薬」と訳されます。もともとラテン語訳の聖書にでてくることば で「喜ばせる」というポジティブな意味を持ちます。どうして日本では「プラセボに過ぎない」な どとネガティブな意味合いで使われることが多いのでしょうか?その語源、漢字文化圏での類似の 用語、臨床試験でのプラセボの作成法、臨床試験と診療での使われ方の違い、倫理との関係など、 プラセボの多義的性格を探ります。 この…
第8回 カイコを実験動物として用いた医薬品開発
これまで、医薬品の治療効果の評価のための実験には、マウスなどのほ乳動物が用いられてきま した。しかしながら、多くのほ乳動物を犠牲にすることはコストがかかるばかりでなく、動物愛護の観点から問題があるとされるようになりました。カイコは長い養蚕業の歴史の中で、その飼育方法が確立されてきた、いわば家畜とも言うべき動物です。私たちは、カイコを用いて病気のモデルを作り、これを用いて新しい医薬品を発見することに…
第9回 騙された空間認知と医学
3Dテレビが一般家庭に普及する時代となっています。3Dテレビは今までのテレビと比べて「臨場感」が非常に高いと言われています。それでは「臨場感」とはいったいどのような感覚なのでしょうか。ある意味でこの「臨場感」とは、現実世界の物理空間から人間が受けている知覚刺激に類似した刺激を工学的に与えられることで生じる「騙された認知空間に存在している感覚」とも考えることができます。ここでは「臨場感」の医学との関係…
自然界におけるだまし
第10回 動物のだまし
生物は生存や繁殖のチャンスをあげるために、しばしば「だまし」を行います。ここでは、脊索動物を中心にだまし行動を具体的に解説します。だましが見られる文脈は、カモフラージュ、擬態、偽傷、偽死、托卵などで、同種の他個体あるいは他種個体をだまします。霊長類では、戦術的だましと呼ばれる仲間の裏をかく行動がみられ、このような能力が脳の進化を促したと考えられています。人間は協力する動物として特別な存在ですが、…
第11回 昆虫の擬態:だましのテクニックの進化
昆虫には極めて精緻で多様な擬態が見られます。他の動物に比べ小型の昆虫は捕食されやすく、形、色、行動などを他者に似せて、捕食者をだます戦略を発達させました。擬態は、モデル、情報発信者(擬態者)、情報受信者の3者間で成立している複雑な現象です。「似せてだます」戦略にはどのようなものがあるのか、本講義では様々なケースを紹介します。また、だましのテクニックの基盤となっている分子メカニズムも、アゲハなどを…